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虹色のパレット

虹色のパレット

12.出会いと出合い

12.出会いと出合い

 それが、K先生との出会いだった。K先生は、図工の専科の先生であると同時に、日本の若手前衛芸術家としても活躍なさっておられると言う事だった。入学式が終わってしばらくすると、銀座の画廊でK先生の個展のオープニングが開かれ、私も他の先生方と一緒に押し掛けた。
 それが、私とコンテンポラリー・アートとの出合いだった。私は、始めてこんな世界のあることを知った。自由で、斬新で、人の心の中に無限に広がる宇宙を垣間見たような気がした。
 出会いって、不思議だ。そして、偶然に見えるが、多分それは必然であったのだろう。スケッチブックと上野の美術館から、私は、一挙に前衛芸術の世界に惹かれていたったのだった。
 それからというもの、私は、K先生にくっついて、土曜日の午後は、銀座や新宿の前衛的な作品を展示している画廊をくまなく見て歩いた。K先生と私は、黙ってスタスタ、スタスタよく歩いた。疲れると、ちょっと一杯やりながら、芸術談義に花を咲かせた。

 そんなある日、私は、自分の人生にとって決定的な、ある物たちと出合った。 
 それは、K先生と日本や外国の前衛的な作品を見て歩くようになってから、一年くらい経った頃のことだっただろうか・・・。
 何時ものように、土曜日の午後、K先生と私は竹橋の近代美術館に足を運んだ。そこでは、「アメリカ近代美術展」というようなかなり大掛かりな展覧会が開催されていた。
 それまでにも、幾つかアメリカの作家の作品にも触れてはいたが、これだけの作家と作品を見るのは初めてだった。会場に入ると、お互い口はほとんどきかないで、一つ一つの作品を熱心に見て回った。
 色彩、形、空間の取り方から、世界への関わり方、作品の発散するエネルギーの質、そんなものまでが、ひどく目新しく新鮮に見えた。「アメリカと日本て、違う世界だなー。」とつくづく思った。
 そんな風に思いながら、次々に作品を見ていき、一つの作品の前に来た。私は突然、頭から心に向かうような、凄い一撃を受けた。それは、他のどんな作品とも違った、未知の世界のような気がした。どう説明していいか・・・。深い静かなグリーンで、荒い下地の上にかすかな凸凹を持ってアメリカの国旗が、キャンバスに塗り込められているように描かれているのだ。それは、物であり概念であり理性であり情熱であり、静かで激しく、普段対立しているのもが、平然と同居しているような、不思議な世界だった。
 あまりの驚きに、堪らなくなって、そんな世界から逃れるように後ろを向くと、今度は、心から頭に向かう強い一撃で、度肝を抜かれた。一瞬、親しみがあるが初めてのような、エネルギーが渦巻いているのにひどく平然としているような、不思議な世界に墜落したかと思った。それは、チューブから絞りたての鮮やかな絵の具と、何かで引っかいたような激しいタッチのキャンバスの真ん中に、使い古した当たり前の箒が一本引っ掛かっている、そんな作品だった。
 それが、ロバート・ラウシェンバーグとジャスパー・ジョーンズと言う二人の巨匠の作品との出合いだった。

 その後しばらく、二つの作品のイメージが頭から離れなかった。それに、K先生は、世界旅行もされていて、ニューヨークの話も度々伺っていたが、そのときから、「どんなにエネルギーの充満した活気あふれる、自由な街だろう!!」とニューヨークは憧れの街となった。


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